白狐通信

胡粉(ごふん)とは

胡粉は、主にホタテや牡蠣、ハマグリなどの貝殻から作られる白色の粉末状の顔料です。
上羽絵惣で取り扱っている胡粉は、純度の高い炭酸カルシウムを得られる、北海道のホタテ貝を100%使用しています。
日本画では下地として、また白色そのものとして使用するため、無くてはならない重要な絵具です。絵画だけでなく、木彫りの下地や建築用の木材の腐食防止、極彩色の下地や、看板の文字にも使用されています。紙や絹、木地を風雨やカビなどの侵食から守り、割れを防ぎ、表面を強化し、なめらかにする効果もあります。
天然素材の柔らかい白色は、お雛さまや御所人形、能面の仕上げにも古くから重宝されてきました。

胡粉の歴史は古く、奈良時代(710年~794年)に渡来したといわれています。その頃の白色顔料は鉛を加工してつくる鉛白(えんぱく)のこととされていたそうですが、X線解析などの技術により、貝の殻を用いた胡粉がその頃すでに使われていたことがわかっているそうです。
そのような古(いにしえ)の時代から使われていた胡粉は、室町時代以降には能面や仏像、お人形や玩具など様々な分野で頻繁に用いられるようになり、今日まで無くなることなく私達の暮らしの中に溶け込んできました。上羽絵惣でも、九代目当主が集めた伏見の土人形や、看板の文字などに胡粉が使われているのを見ることができます。

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日本最古の絵具商・上羽絵惣の胡粉

上羽絵惣で扱っている胡粉は、京都府宇治市の職人さんの元でつくられています。
昔、宇治川では急流を利用する水車を使い、水田に用水を引き精米や製粉をおこなっていました。室町時代の小唄や、桃山時代から江戸時代にかけての風景を記した屏風などに見ることができます。その水車を利用し、胡粉作りもおこなわれてきました。

水車が姿を消したあと、電化されつつもいまだに伝統的な製法でつくっているのが、上羽絵惣の白狐マークでおなじみの胡粉なのです。広い場所で材料になるホタテ貝の貝殻を十年ほど風雨にさらし、風化させるのもこの場所で続けられています。

上羽絵惣の胡粉は、北海道産のホタテ貝殻を100%使ってつくられています。数十年前までは瀬戸内沿岸で獲れるイタボガキという牡蠣殻が使われていましたが、環境の変化により漁獲量が激減したため、純度の高いカルシウムを得られるホタテ貝殻を使用するようになりました。

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貝殻が胡粉になるまで

貝殻を胡粉にする工程をこれから少しご紹介いたしましょう。
まずは、風化させた貝殻を選別する作業からはじまります。貝には身と蓋がありますが、蓋には赤みのある色がついており、硬く、不純物を多く含みます。身の部分は「身を守る」と言うだけあって厚みがあり、白くキメの細かい上質の胡粉ができます。

十年ほど風雨にさらしたホタテの貝殻を身と蓋に選別したら、それを研磨し、洗浄します。貝車(かいぐるま)という洗浄機に入れ、水を流しつつ回転させます。貝殻同士がぶつかることで不純物や汚れが落ち、より白くなめらかになります。洗った貝殻は天日干しにし、荒く砕いて粉砕機に入れ、さらに5ミリ程の大きさにします。
次に胴搗(どうづき)というスタンプ式の粉砕機でさらに細かくします。この工程を昔は水車でおこなっていたようです。
そしてさらにボールミルという回転式の粉砕機に石と地下水を入れて泥状にしていきます。
水と混ざった泥状の胡粉は撹拌(かくはん)し、篩(ふるい)に通し、上澄みの水は捨てて粒子を沈殿させます。

多くの工程を経て、とろりとした泥状になった胡粉を柄杓ですくって、手作業で杉板に流します。板には足がついており、たくさん重ねて天日に干すことができます。

乾燥させた胡粉は板を叩いて剥がし落とします。
フレーク状の胡粉は「板流し」、それをさらに細かく粉状にしたものは「粉(ふん)」と呼びます。
完成した胡粉は1箱25kgにまとめられ、上羽絵惣へ届けられます。
ひとくちに胡粉といっても貝殻のどの部分を使うかなどによって、品質や用途が違っています。上羽絵惣の胡粉のなかで最も高級で高品質なものを「飛切(とびきり)」と呼び、最高の白さと滑らかさ、柔らかい風合は、日本画や人形、能面などの仕上げ用に最適です。

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伝統をつなぐ

上羽絵惣の白狐ラベルの胡粉は、5種類あります。
先に紹介した「飛切(とびきり)」が最高級で、その次が「白鳳(はくほう)」、「寿(ことぶき)」、「白雪(しらゆき)」、「白花(しろはな)」と名付けています。
飛切にはホタテ貝殻の身(二枚貝の下部)の良いところだけを使っており、上質で白の純度が高いのが特徴です。白鳳から白花までは貝の蓋部分を混ぜています。蓋にはわずかに色がついており、硬く不純物も多く、粒子も粗くなるので、混ぜる割合によりランクと値段を変えています。
袋に入ったものは主に下地や盛り上げに使われます。粗いものは下地のひび割れ防止や、お寺の黒板に文字を書くのに使われていたりします。また、純度の高い天然カルシウムですので、塩豆など食品にも使われていたり、用途はさまざまです。

上羽絵惣の胡粉は、今日までみなさまに愛され、職人さんの確かな技術に支えられて、長い年月の間取り扱うことができております。これからも胡粉の可能性に注目し、たくさんの方々に知っていただきたいと思っております。海にいた貝の殻が十年もの年月を経て姿を変え、職人さんの手によって真っ白い胡粉に生まれ変わり、様々なかたちで、みなさまの目や手に触れて役立っていくと思うと、素敵なロマンを感じずにはいられません。
その胡粉を少しでもたくさんの方々に知っていただきたく、「胡粉ネイル」がうまれました。
少しずつ様々なかたちで、絵具や胡粉の存在や良さが広がって、古き良き絵具の技術を伝えていけたら良いな、と思っております。

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更新日: 2024年03月15日 @上羽絵惣スタッフ